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東京地方裁判所 平成4年(ワ)2780号 判決 1992年10月13日

原告 物産セパック株式会社

右代表者代表取締役 山下國久

右訴訟代理人弁護士 虎頭昭夫

被告 株式会社高輪リアルエステート

右代表者代表取締役 小柳康彦

被告 白石健一

右訴訟代理人弁護士 今井隆雄

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告両名の間において別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)についてなされた別紙賃貸借目録記載の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という)を解除する。

2. 被告白石健一(以下「被告白石」という)は、本件建物に係る別紙登記目録記載の賃借権設定仮登記(以下「本件仮登記」という)につき1の解除判決を原因とする抹消登記手続をせよ。

3. 被告白石は原告に対し本件建物を明け渡せ。

4. 訴訟費用は被告らの負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 被告高輪リアルエステート(以下「被告会社」という)

被告会社は適式な呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

2. 被告白石

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は被告会社に対し次のとおり金員を貸し渡した。

契約日 平成三年二月二五日

貸付金額 二億八〇〇〇万円

弁済期 平成四年二月二五日

弁済方法 弁済期に一括弁済

利息 年一〇・五パーセント、三か月毎の前払

損害金 年一八パーセント

特約 被告会社は債務の全部又は一部の履行を遅滞したときは、何らの通知催告を要せず当然に期限の利益を失い、残債務全額を直ちに支払う。

2. 被告会社は原告に対し、平成三年二月二五日前項記載の債務を担保するためその所有に係る本件建物について被担保債権額二億八〇〇〇万円の抵当権を設定し(以下「本件抵当権」という)、同日右抵当権につき東京法務局港出張所同日受付第四六五四号抵当権設定登記を経由した。

3. 原告は、平成三年一一月二二日本件抵当権に基づき東京地方裁判所に対し本件建物について競売を申し立て、同月二五日不動産競売開始決定を得たものであり(平成三年ケ第二四八四号)、現在競売手続(以下「本件競売手続」という)が進行中である。

4. 被告両名は平成三年八月二三日本件賃貸借契約を締結し、右賃借権につき本件仮登記を経由した。

5. 本件賃貸借契約は次のとおり本件抵当権者である原告に損害を及ぼすものである。

(一)  5項記載のとおり、本件賃貸借契約上被告白石から被告会社に対し高額の前払賃料三五〇〇万円及び保証金七〇〇万円が支払われているほか、右賃借権を自由に譲渡転貸できる旨の特約がある。

(二)  本件競売手続により本件建物の所有権を取得した者は、右(一)の契約内容を承継せざるを得ないから、買受希望者はなかなか出現せず、また競売価格も低くならざるを得ないのに加えて、本件建物の時価は二億円を下回り、原告は本件競売を実施しても1項記載の原告の債権全額を回収できないのであるから、本件賃貸借契約が解除された場合の売却価額は、右賃貸借契約が存続する場合のそれを上回ることは明らかである。

(三)  右(一)、(二)記載のとおり競売価格は右賃貸借契約の存在によって大幅に低下することになるところ、被告白石の占有は形式的なものにすぎず、本件賃貸借契約は債権回収ないし執行妨害の意図のもとになされた濫用的なものであるから実質的にも法的保護に値いしない。

6. 被告白石は本件建物を占有している。

よって、原告は民法三九五条但書に基づき、被告らに対し本件賃貸借契約の解除を、被告白石に対し本件仮登記の抹消を求めるとともに、前記1記載の債権を保全するため、債権者代位権に基づき、被告会社の明渡請求権の代位行使として本件建物の明渡しをそれぞれ求める。

二、請求原因に対する認否

(被告白石)

1. 請求原因1の事実は知らない。

2. 同2の事実のうち本件抵当権設定登記が経由されていることは認め、その余の事実は知らない。

3. 同3及び4の事実は認める。

4. 同5(一)の事実は認め、同(二)及び(三)の主張は否認ないし争う。

5. 同6の事実は認める。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1の事実は弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証により認められる。

二、請求原因2のうち、本件抵当権設定登記の事実は当事者間に争いがなく(被告会社は被告白石の自白に係る請求原因事実については明らかに争わないものとみなされる。以下同じ)、本件抵当権設定の事実は弁論の全趣旨により成立を認める甲第六号証により認められる。

三、請求原因3、4及び5(一)の各事実は当事者間に争いがない。

四、原告は、本件賃貸借契約は抵当権者である原告に損害を及ぼすと主張するので以下これについて判断する。

1. 短期賃貸借契約が抵当権に損害を及ぼすものとして民法三九五条但書に基づく解除が認められるためには、抵当不動産上に買受人に対抗することのできる賃貸借が成立したために競売価格が低下し、抵当権者が被担保債権について十分な弁済を受けられなくなることが必要である。

賃貸借契約の内容が賃貸人にとって義務のみを負う等著しく不利益なものとなっている場合は、その存続により競売価額がさらに低下することは明らかであるということができるから、右賃貸借契約において過当な賃料の前払等がある場合には一般的には当該賃貸借契約は抵当権に損害を及ぼすものと認めることができる。

しかしながら、仮に賃貸借契約の内容が賃貸人にとって著しく不利益なものであっても、それが抵当権者に対抗することができない事項であれば、競売手続においても右事項は買受人に対抗することができないものとして扱われるのであって、その短期賃貸借は抵当権者に損害を及ぼすものとはいえず、抵当権者は民法三九五条但書により裁判所に対し右賃貸借契約の解除を請求することはできないものと解するのが相当である。

すると、本件賃貸借契約の内容のうち右賃料の前払及び保証金の交付については本件仮登記上記載がなく、右記載がない以上これをもって抵当権者あるいは買受人に対抗することができないのであるから、右賃料の前払及び保証金の交付の事実をもって本件賃貸借契約が抵当権者に損害を及ぼすものということはできない。また、本件仮登記上記載のある本件賃貸借契約の内容としては、他に賃借権譲渡転貸自由の特約があるが、右特約のみをもって賃貸人に著しく不利益な内容であるということはできないから、右特約が抵当権者である原告に損害を及ぼすものともいえない。

2. 右に加えて、そもそも同条に基づく短期賃借権の保護は抵当権者にとっての抵当不動産の価値権とその利用権の調和を図るものであるから、同条の形式的要件を備える短期賃貸借契約であっても正常な用益を主たる目的としないと認められるものは、買受人に対抗しうる短期賃借権として民事執行法上の保護に値いしないものと解すべきところ、成立に争いのない甲第七号証によれば、本件建物内には若干の小物があるのみで家財道具等は一切なく、住居としての通常の使用が現実になされていないこと、被告白石が本件建物の現況調査の際に執行官に対し特に主張したいこととして借家契約等に関する回答書に同被告が被告会社に対し貸金を有しているので弁護士に相談中である旨記載していることが認められ、右事実を合わせ考察すると、本件賃貸借契約は債権担保、回収をその目的とした濫用にわたるものと言わざるをえず、前記のような保護すべき要請を欠くものというべきである。すると、本件賃貸借契約は抵当権者あるいは買受人に対抗することができず、抵当権者は本条に基づき右賃貸借契約の解除を求めることはできないものといわなければならない。

なお、成立に争いのない甲第八号証によれば、本件建物の評価額は賃借人の存在がないものとして一億五〇五三万円であるが、被告白石が本件建物を占有していることにより五〇万円減価され結局一億五〇〇三万円と評価されていることが認められるが、これは不法占有者が存在することによる事実上の減価を見込んだものと解されるから、右減価の事実をもって、民法三九五条にいう本件賃貸借契約が抵当権者に損害を及ぼすものとすることはできないというべきである。

以上のとおりであるから、原告の主張はその余の点について判断するまでもなく失当である。

五、よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤村啓 裁判官 吉川愼一 増田あさみ)

<以下省略>

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